Day1-2 オスロからロングイェールビーンへ
非日常が日常の世界最北の町(2025年6月11-12日)

オスロのエアポートホテルでシドニーから出発の3人、日本から出発の4人、そしてケニアからオンリーワントラベル代表の山田さんが合流、決起会を兼ねて夕食を共に頂く。

半年ぶりにお目にかかる高砂淳二シショーもお元気そうだ。

2025年3月、ナショナルジオグラフィック日本版は創刊30周年を迎えた。

その記念すべき特別号の表紙を飾ったのが、シショーが撮影されたウユニ塩湖に羽ばたくフラミンゴの夢幻世界のような作品。

更に、巻頭20ページはシショーが抱くようになった地球への思いが写真とエッセイで綴られている。

私にとっては永久保存版だと日本から手に入れており、サインをして頂くため今回の旅にも連れてきた。

Junji Takasago_Photraveller Yori_natgeo

そしてこの日、3億人のフォロワーを持つアメリカ版ナショナル ジオグラフィックのインスタグラムに、表紙を飾ったフラミンゴの写真が投稿されたと聞き、その快挙に皆で乾杯した。

幸先良い旅の始まりだ!

シショーは世界最高峰と言われるロンドン自然史博物館主催のフォトコン「ワイルドライフ・フォトグラファー・オブ・ザ・イヤー2022」自然芸術部門の最優秀賞を日本人で初めて受賞された方。

誰が観てもシショーの作品は心の奥まで深く響く。

今回の北極圏ではどんな瞬間を切り取られるのだろう。

今からとても楽しみだ。

Above_Svalbard

スヴァールバル諸島スピッツベルゲン島上空

翌朝、オスロからクルーズ船が待つロングイェールビーン(ロングイールビュエン、Longyearbyen)へとフライトで移動。

国内移動ではあるが、スヴァールバル諸島へ入るにはパスポートコントロールが必要なため国際線ゲートから入る。

フライトはスカンジナビア航空。

初めて利用したが、機内食がヘルシーで非常に美味しい。

レンズ豆とアップルのサラダ、鶏胸肉のグリル、コーンとライムのディップとクラッカー。

フライトはいつもビジネスクラス利用という仲間の一人が、今まで食べた機内食の中で一番ヘルシーで美味しいと絶賛するほど。

素晴らしいことに容器は紙製、カトラリーは木製が使用されており、プラスチックはクラッカーの包装だけだった。

さすが地球環境への意識が高い北欧の航空会社だ。

気が付けば、眼下に空の青と雪の白だけの世界が広がっていた。

ロングイェールビーン空港_ホッキョクグマの剥製

3時間のフライトでロングイェールビーンに到着した。

手荷物受取所で迎えてくれたのはホッキョクグマの剥製。

北極圏に着いたという実感が湧いてくる。

しかし気温は8度。

拍子抜けするほど暖かい。

クルーズ船に乗船するまで時間があるため、用意されていたバスでロングイェールビーンの町に移動し市内観光を兼ねての待機となった。

我々はサンドイッチを持っていたので、極北の景色を眺めながらピクニックランチができればサイコーだろうとガイドさんにおすすめの場所を聞いてみると、意外な答えが返ってきた。

「屋外で食べることはお勧めしません」

「?!」

理由はホッキョクグマを引き寄せてしまうかもしれないからだった。

スヴァールバル諸島には人口よりも多い数のホッキョクグマが生息しており、集落を離れる際は銃の携行が法律で義務付けられているという。

クマが同居するこの地には、現在53か国から集まった約2500人の人が暮らしている。

ノルウェー領ではあるが独自の自治体制度が設けられているため、スヴァールバル条約に加盟している国の国民であれば、なんとビザ無しで誰でも今すぐに「移住」できてしまうのだ。

期限も問われず居住許可なども不要で、もちろん就労可能。

オーストラリア在住の私だが、永住権取得には多くの条件を満たす必要があり時間やお金もかかった経験があるため、その寛大さに驚いてしまう。

最も寒い2月の平均気温は氷点下16度、太陽が全く昇らない極夜が4ヶ月も続く過酷な環境に住もうという人を寄せるには、敷居を低くする必要があるのだろう。

ガイドさんによると、仕事はたくさんあるが住まいを探すのが至難の業だとか。

それでも、クルーズ後に「スヴァールバル気に入ったから、このまま残って住んじゃおう!」が実現可能というわけだ。

そしてこの地は我々の非日常が日常の、大変興味深い場所だった。例えば、

❌ この地で死ぬことは法律違反

土中の遺体から何世紀も前のバクテリアなどが完全な状態で保存されていたという事実があり、永久凍土が解けた時の病原菌放出を避けるため、この地で死ぬことは許されない。

火葬なら問題解決しそうだが、この地の主な宗教は土葬が基本のキリスト教だから、その発想はないのかもしれない。

❌ この町で産むことも禁止

出産に適した医療施設がないため、妊婦は出産予定日の1ヶ月前に本土ノルウェーに移動しなければならない。

⭕️ 銃器の携帯義務

前述したが、集落から出る時は銃器の携帯が義務付けられている。

ホッキョクグマは遠くにいるわけではないからだ。もちろん公共施設への持ち込みは禁止されている。

北緯78度、北極点まで1300kmの凍った島の生活をもっと知りたくなってきた。

スヴァールバル_ロングイェールビーンの住宅

ロングイェールビーンの子供たち

1000人以上の人が住む定住地としては世界最北の場所に位置するロングイェールビーン。

寒くて寂しいイメージを持っていたが、北欧ノルウェーの感性が届いており、落ち着いたトーンの色彩が溢れるモダンな装いの町だった。

可愛らしい大きな恐竜の遊具の周りで子供たちが元気に遊んでいる。

スーパーマーケットの入り口には「銃器持ち込み禁止」の大きな表示が貼られていた。

卵は1ダース1,000円、牛乳は1リットル400円ほどでノルウェー本土よりも少し高い印象。

スヴァールバル諸島に消費税は無いが、生鮮食品は空輸のため割高になるようだ。

スヴァールバル諸島_銃持ち込み禁止サイン

ロングイェールビーンのスーパーマーケットの入り口に貼られた銃持ち込み禁止サイン

スヴァールバル_ロングイェールビーンのメインロード

町のメインロード。世界最北に生きる人々の生活と観光の拠点となっている。

観光案内所が目に入ったので入ろうとすると「靴を脱いでください」という表示が貼られており、ちゃんとスリッパまで用意されている。

意外なこの習慣は、長らく主要産業であった炭鉱業が背景にあった。

炭鉱夫たちの靴が運んでくる石炭の粉塵や泥を室内に入れないために始まったそうだが、この良き習慣は現在でもマナーとして定着しており、図書館、大学、ホテルなどの公共施設などでも靴を脱ぐことになっているそう。

100年以上この町を支えてきたその炭鉱業だが、ノルウェー本土はほぼ100%の電力を再生可能エネルギーに移行しており需要が減ったため、ノルウェー系の炭鉱は2023年に全て閉鎖された。

ロシア系企業は別の町で稼働しているが縮小方向にあるらしい。

現在の主要産業は観光や極地研究。

行くことができなくて残念だったのは「スヴァールバル世界種子貯蔵庫」だ。

ノアの方舟ならぬ「種子の方舟計画」と称されるこのプロジェクトは、ノルウェー政府主導の元に具体化され、複数の国際機関の協力で運営されている。

将来起こり得る気候変動、自然災害、核戦争等の地球規模大惨事に備え、農作物の種の絶滅を防ぎ、農業再開の手段となる遺伝資源のバックアップを確保することを目的とした施設なのだ。

収蔵されているのは国際的な遺伝子バンクに保管されている種子サンプルの複製で、日本固有種の米や大麦などの種子もバックアップされているそう。

オルテリウス号_M/V Ortelius

乗船の時間に合わせて埠頭に向かうと、北極圏と南極での極地クルーズで知られる氷に強い探検船「オルテリウス号」の威風堂々とした姿が見えてきた。

いよいよ乗船だ!

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次回の第3話は、極地探検船・オルテリウス号の話。お楽しみに!

<文・写真> フォトラベラーYori